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初めての方は、このブログについて、をご覧ください。金融業界で働いています。毎日の気になった情報・ニュース・考えを載せていきます。友人・知人の皆さん、コメントの際にはハンドルネームで呼んでくださいー。


by a_villager

市場リスク 暴落は必然か


アメリカにいたときに目に留まって、でも買う機会がなくて、日本で和訳版を買って読んだ。ずっと金融機関のリスクマネジメントに携わっていて、しかもキチンとした経済学の訓練も受けているからなのか、現場に状況を、非常に細かいところまで分析して記述していて勉強になる。この内容で2400円は安いですね。

市場リスク 暴落は必然か
リチャード・ブックステーバー / / 日経BP社
ISBN : 4822246671
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昨日、Lehman Brothersが大規模な損失を発表しましたね。まだまだ嵐は続きそうですね。自分が持っている怪しげな商品をどうやって評価するのか、どの程度厳しく評価するのか、その基準が皆同じとは思えない。意図を持ってそのような評価をしているのか、それとも正しく評価する術がないのか。今まではそんな商品を作ってきた・売ってきた会社がヤバイ目に遭ってきたけど、そういうのを買ってきた会社はどうなんだろうなー、と思うこの頃。そういうのを正しく分析できるようになりたいですね。

それはさておき、本の中で目に留まった部分を。。。

・市場が危機に陥ると、資産間の相関の絶対値は1に近づく。問題は、どのような場面でも、相関が正になるか負になるかを事前に予測できないことである。ある特定の資産が結果的に別の資産のヘッジになるかもしれないし、リスクが倍増することになるかもしれない。(p.49)

・危機に陥ったときのトレーダーの行動について。損失が出ているポジションを修正することを阻む慣性、もっと具体的にいうなら、予想外のところから生じる損失に直面したときの慣性である。実験生物学では、こうした現象を「実験神経症」と呼ぶ。実験室の動物は、これまでに経験したことのない未知の環境や出来事にぶつかると、ボールのようにただ体を丸めて、刺激を完全に無視するようになることがある。(p.129)

・Long Term Capital Management崩壊の最後の引き金を引いたのは、流動性機器だった。8月にロシアが事実上のデフォルトを宣言したことで、LTCMは資産を売却する必要に迫れたが、市場はまったく機能しなかった。そして、流動性が消滅した理由をさかのぼっていくと、1つの出来事にたどりつくことができる。ソロモン・スミス・バーニーがアメリカ債券自己売買部門の閉鎖を明らかにした、あの7月6日の発表である。(p.161)

・流動性があるということは、いつでも価格を決定できて、即座に現金化できるということである。それは担保をとって融資をしようという金融機関の意欲が高まることを意味する。資産の流動性が高いと、借り入れはしやすくなるが、危機の媒体も生み出すことになる。(p.163)

・収益機会が最も大きいのは、モーゲージ市場のように、より複雑で、モデルエラーが生じる、潜在的な危険性の高い至上や、揺籃期にあるために、相対的な流動性や安定性がきわめて低く、モデルの裏づけとなる経験もほとんどない市場である。(p.176)

・流動性が確保されていることは、投資ポートフォリオにとって望ましい特製であるのは間違いないにもかかわらず、皮肉にも、そうした特製こそが流動性危機のサイクルの源流になるからである。LTCMが、資産の価格が秒刻みで発表されず、在庫を即座に市場で売却できず、在庫の性質が広く知れわたっていない会社であったなら、LTCMを破綻に追いやり、世界中の市場にパニックを伝播させた下降サイクルが起こることはなかっただろう。(p.191)

・銀行がほかの地域で資産を投売りしてエクスポージャーを減らす未知を選べば、混乱がほかの市場に飛び火して、局地的な危機が世界機器へと発展するおそれがある。ほかの地域の銀行にとっては、自国市場が明白な理由もなく急落することになる。そして、切迫した状況に置かれていた銀行がたまたまその地域の資産も保有したというだけの理由で、危機が伝播していくのだ。(p.249)

・当市市場への資金の流れはきわめて重要な意味をもつ。どの種類の投資家が買い持ち、売りもちしているか、そして、レバレッジをかけすぎていそうな投資家がどれだけいるかを判断する手がかりになるからだ。(p.283)

原書のタイトルは、A Demon of our own Design、つまり自分たちが作り出してしまった悪魔、市場をここまで高度に発展・連結させてしまったからこそ発生するようになったリスクのことを意味している。

正常な状態でスムーズに動くように設計されているシステムも、一旦想定外の出来事が発生すると、その前提が崩れてシステムが予想外の方向に動くことがある。その上、全部の市場が高速が情報網で連結されているから、その伝播のスピード・規模がきわめて速く、危機的な状況を招くこともある。

個人的には、グローバルな投資家(個人投資家、年金基金、ヘッジファンド含めて)のポートフォリオの状況を大まかな形でも把握しておくことが重要かもしれないと感じた。ある、全く関連のないような出来事が他の市場で起きたときに、それらの投資家が自分の見ている市場でどのような行動に出るのか、どういう風に彼らのポートフォリオが調整されていくのか、そういうことに考えを巡らせておくことが重要かと。上流で大雨が続いて水位が上がっているダムの目の前で突っ立っているな状況にはなりたくないね。

今の金融市場の嵐は大変だけど、こういう状況から何を勉強できるかが重要だって、先生に言われました。
by a_villager | 2008-06-10 10:22 | ファイナンス